2016年4月29日金曜日

【タタール語】第四回タタール語オリンピック参加記

私はタタール語を話す、(タタール語の)未来は私が変える–––



2016年4月20日、ロシア国内外から集まったタタール人の若者たちが声高らかに宣言した。危機が叫ばれるタタール語の保護と促進の目的で行なわれている青年運動「私はタタール語を話します(Мин татарча сөйләшәм акциясе)」でのワンシーンでの出来事である。


カザンの中心・バウマン通りの標識。上からロシア語、タタール語、英語。


タタールスタン共和国カザン市で開催された「国際タタール語・タタール文学オリンピック」は今年で第4回大会を迎えた。参加希望者は年々うなぎ上りで、昨年は1万人足らずだった申込みは、報道によれば今年は1万2000人以上だったそうだ。
「タタール語オリンピック」はタタールスタン共和国が主導するタタール語・タタール文化の保護・促進運動の目玉政策のひとつである。


筆者の中村は入賞した昨年の第3回大会に引き続き、今大会の出場権もかろうじて得た。そして、3位に入賞した。この記事では筆者の参加体験をもとに、今年のタタール語オリンピックの詳細をお伝えする。
なお、前大会の参加記はこちらから。(→ 第三回タタール語オリンピック参加記)



タタール料理の代表格・オシュポシュマックを食べながら夜な夜な試験勉強・・・・


そもそも「タタール語オリンピック」とは何ぞや、という話であるが。
簡潔に述べるならば「全世界のタタール語を話す青年たちのためのアツいイベント」である。参加者の99%は日常的にタタール語を使用するタタール人だが、残りの1%は私のような非タタール人のタタール語学習者である。
タタール人ではないから・・・と臆することも遠慮することもない。大変歓迎される。メディアの格好の餌食となり、動物園のパンダさながら大人気になること間違いなし。

大会会場に、第2回大会優勝の菱山さん(今回は参加者ではない)が現れ、メディアの魔の手が・・・


ちなみに、タタール人はタタールスタンのみならず、ウズベキスタンを含んだ中央アジアからロシアのシベリア地域まで広く居住し、ディアスポラの民と呼ばれることも多い。
日本ではあまり知られていないが、ロシア革命以降はハルピンを経由して日本に亡命してきたタタール人も数知れず。(多くはその後、オーストラリアやアメリカに再亡命したので、現在も日本に暮らすタタール人はそう多くはない)


このように世界中に散らばるタタール人によって話されるのがタタール語である。
最も大きな話者数を抱えるのはロシア、とりわけタタールスタンやその周辺の地域だ。
クリミアでもクリミア・タタール語が話されるが、これはカザンのタタール語とは異なるもので、別の言語である。



なお、今大会の流れもこれまでの大会と大差はない。
11月上旬から12月中旬
12月上旬から12月中旬
1月中旬
1月下旬から2月上旬
3月以降
4月下旬
カザン連邦大学HP上でネット試験(一次選考)申し込み
カザン連邦大学HP上でネット試験受験
各カテゴリーの本選出場に必要な最低点の発表
本選参加者の名簿発表
担当者と個別にやりとりし、ビザなどの取得手続き
タタール語オリンピック本選 (カザンにて4日間)


・参加要項に関して
これはかつて当サイトでもご紹介したとおりである。
詳細はこちらを参照していただきたい。→「第四回タタール語・文学オリンピック実施要綱」


・ネット試験 (本選に向けた選考)について
今年のネット選考は1万2000人程度が受験し、うち本選への出場権を手にしたのは昨年と同じく500人程度。昨年以上に狭き門となった。
ネット試験の段階から「タタール語学校の学生」「タタールスタン共和国外の学生」「タタール語専攻の学生」といったカテゴリー分けがされており、我々のようにロシア国外に居住する学習者が受験するのは「ロシア国外の学生」のカテゴリーである。

参加者全員には特製リュック(ちょっと脆い)、ノート、ペン、名札、民族帽(写真にはないが)が配布される


ちなみに、これまでのネット試験の過去問は以下のとおり。
綴りのミスが多いが、原文まま。こうした細かな"綻び"も、ある意味ではタタールの現状を示しているとも言える。
 ・2014年第2回大会 ネット試験
 ・2015年第3回大会 ネット試験
 ・2016年第4回大会 ネット試験

問題文の表記はキリル文字かラテン文字のどちらかを選択することができる。
試験は1時間以内に30問の問題(20問は選択、10問は入力形式)に回答する必要があるが、正直言って分からない問題があったらネットで即座に検索することはできる。
(例えば詩の穴埋めなど)


・「外国からの参加者」について
今大会で、ロシア国外から本選への参加権利を手にしたのは22名。加えて7名が招待されたため、最大29名がロシア国外から参加できるはずであった。
ビザが出ない、出国許可が下りない、体調が悪い・・といった理由で参加できなかった参加者も数名おり、実際に参加したのは24名
昨年同様カザフスタンからの参加者が13名と最も多かった。その他にはクルグズ、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、トルコ、フィンランドやオーストラリア、フランス、ベラルーシといった国々からの参加者が続く。

「タタール人」とはいえ、いろいろな顔があります。

なお、国外参加者向けの選考も今年は異様にレベルが高く、本選に出場するためにはネット試験で90点以上を取る必要があった。筆者は幸いネット試験の点数が良かったのでストレートで参加が決まったのだが、例えば昨年は「招待枠」で拾ってもらった。


・「日本からの参加者」として
正直な話をすれば、日本という国から参加を目指す限りはネット試験の点数はさほど大切ではない。60〜70点程度取れていれば、たとえ参加基準の点数に達していなくとも「招待枠」という形で声がかかる可能性は高い。


・自由時間には期待しないこと
大会期間中の自由時間には期待しないほうがいい。
なお、筆者の場合は参加者登録を朝一で済ませることができたため、開会式までの半日は自由に動き回ることができた。
2016年4月19日 (火)
筆者・中村の動き
11:00 - 12:30  参加者到着・受付
13:30 - 15:00  昼食
13:00 - 18:00  参加者到着・受付
17:00 - 18:30  夕食
19:00 - 20:30  タタール語オリンピック開会式
20:30      休息

前日晩にカザン入り
10時に参加者登録を済ませる
11時以降許可をもらって菱山さんたちとカザン中心地へ
17時に戻る
勉強のため3時就寝

2016年4月20日 (水)

07:00 - 08:30  朝食
09:00 - 13:00  筆記・口述試験
13:30 - 15:00  昼食
15:00 - 17:00  「私はタタール語を話します」運動
17:30 - 18:30  夕食
19:30 - 19:00  若者劇場への移動
19:00 - 21:30  観劇
21:30 - 22:00  宿泊施設への移動
22:00      休息

5時起床、勉強
8時半に「拉致」されテレビスタジオへ。10時半以降に筆記試験合流。
16時ごろに抜けてスーパーへ。

プレゼン練習のため2時半就寝。

2016年4月21日 (木)

07:00 - 08:30  朝食
09:00 - 13:00  プレゼン課題の発表(民族衣装着用)
13:30 - 15:00  昼食
15:00 - 17:00  啓蒙活動家との懇談
17:30 - 18:30  夕食
18:30 - 19:00  ティンチューリン国立劇場への移動
19:00 - 21:30  観劇
21:30 - 22:00  宿泊施設への移動
22:00      休息

4時起床、相部屋の人のいびきで眠れず。
浴衣着用。
昼食時間に余裕があるため、宿に戻って平服に着替える。

安心感からか、ビールのせいか、23時就寝。

2016年4月22日 (金)

06:30 - 07:45  朝食
08:00 - 10:30  カザン市内観光 (入賞者以外)
10:30 - 11:00  宿泊施設へ戻る (観光参加者)
11:00 - 12:30  昼食
12:30 - 13:00  ジャリル劇場への移動
14:00 - 16:00  閉会式「母語フォーラム」
17:00 - 18:00  夕食
18:30以降    解散

4時半起床、疲れすぎて眠れず。
朝になって3位入賞を伝えられ、今年もカザン市内観光へ行けず。
09:00 劇場で授賞式リハ
11:00 昼食のため戻る

19:00 テレビ取材
23:00 取材を終えて宿に戻る
26:00 荷造りを終える
27:00 就寝・・・・

翌8時  空港へ・・・



・参加費用 (交通費や宿泊費)に関して
驚くことなかれ、往復の航空券代と宿泊費、現地での食費はすべてタタールスタン教育省が負担してくれる。参加者が負担するものは日本での空港までの交通費と、もし必要であればカザンでのお土産代程度
航空券に関しては、参加が決まったあとに教育省の担当者と日程や利用する空港についてメールでやりとりをすることとなる。メールでの使用言語はタタール語かロシア語。
昨年同様、宿泊施設は2013年にカザンで開催されたユニバーシアード選手村。
現在はカザン連邦大学の学生寮として利用されている。

・本選に関して
作文・口述試験(теоретик тур)
カテゴリーごとに部屋に分けられると、試験問題・指定されたノート・ペンの三点セットが配布される。その場で20分ほど考えて作文し、希望順に試験官の前で発表・質疑応答を行う。(なお、日本からの参加者というだけで試験官が喜んで一番手に指名してくることも・・・ある)

作文・口述試験の様子

今大会は試験官の数は5名。ラッキーなことに、試験問題は20題もの選択肢から一つ、好きなものを選べる形式に変更された。辞書持ち込み不可。試験のために準備したノート等の持ち込みは可
また、今大会からラテン文字表記の問題用紙も用意された。作文用紙にラテン文字で書いても評価対象となった。(当然といえば当然だが)
以下が問題の例。(問題用紙の原本は許可をもらって持ち帰ったので、タタール語版はのちほど。)

・あなたの学校生活について教えてください。
 (先生について、図書室について・・)
・あなたの国の祭りについて教えてください。

 (最も人気のある祭り、新年について、女性・男性の日・・)
・あなたの日常について教えてください。

 (学校での授業について、家での過ごし方について・・)
・健康を守ることについて考えを述べてください。
・言語を学ぶことについて述べてください。

 (学校での語学の授業について、タタール語の学び方・・)
・スユムビケ塔について述べてください。

 (歴史について、塔について、有名な話について・・)
・諸外国のタタール・ディアスポラについて述べてください。

 (居住地について、大きなコミュニティについて・・)
・サバントゥイについて述べてください。

 (時期について、コレシュについて、あなたにとって何か・・)
・偉大な詩人・トゥカイについて語ってください。

 (生涯について、詩について・・)
・英雄・ジャリルについて語ってください。

 (生涯について、偉業について・・)
・あなた自身について語ってください。

 (住んでいる場所について、興味のあることについて、将来の夢・・)
・あなたの家族について教えてください。

 (親戚について、暮らしについて・・)
・あなたの友達について教えてください。

 (住んでいる場所について、性格や興味のあることについて・・)
・あなたの国について教えてください。
 (民族について、文化について・・)

このように、指定されたノートに、選択したテーマについてタタール語で作文をしていくわけです・・


プレゼン課題試験(иҗади конкурс)
今年の課題は「トゥカイ生誕130周年・ジャリル生誕160周年に捧げたプレゼンをせよ」というざっくりとしたもの。5分以内、形式自由
多くの参加者はトゥカイかジャリルのどちらかに関して、その生涯や好きな詩、その詩が書かれた背景などを説明した。
プレゼン課題発表の様子

プレゼン課題のあとに「歌」「詩」「踊り」「タタール伝統模様の紹介」のいずれかを選択し、披露する。多くの参加者は「詩」を選択し、好きな詩を吟じた。
筆者の中村は当然ながら「歌」を選択し、トゥカイの「トゥガン・テル」を歌ったことで高い評価を得た。



・メディアの対応は事前に考えておくと◎
日本から来た、というだけで大きな注目を浴びるため、メディア取材から逃れることはできない。逃れるどころか、スタジオに拉致されるという経験が伴うだろう。
インタビューのみならず、一般参加者からの写真撮影も覚悟しておく必要がある。身だしなみと多少のリップサービスは準備しておくとよいかもしれない。
「なぜタタール語なのか」「どうしてタタール語オリンピックに参加したのか」「あなたにとってタタール語とは」といった考えうる質問への答えは、行きの飛行機の中ででも考えておいたほうがよい。
閉会式は「ムサ・ジャリル劇場」にて大々的に行われます。1000人ほど参加するとか。


・入賞すると・・・・
筆者は今回、なんと3位入賞という栄光ある賞をいただいた。
入賞すると副賞として何らかの電化製品をもらうことができる。今年は「トゥカイ賞(4位)」から1〜3位、グランプリの5つの賞があり、それぞれ異なる電化製品が贈られた。
いずれの入賞者にもタブレット端末が贈られたが、順位によってグレードが異なるようであった。
ASUSのTransformer Padなる素敵なタブレット端末をいただいた。
日本語対応。当然タタール語も対応。SIMフリー!


・タタール語オリンピックに参加する意義
タタール人にとっては自身のタタール語力を確かめる場であり、民族愛を感じさせる場であろう。大会側も、この二つを目的に運営している。
一方でタタール語学習者にとっては、同じくタタール語力を確かめる場であり、タタール語の実践の場でもある。日本ではなかなか聞く・話す機会のないタタール語を思う存分使えるのがタタール語オリンピックである。また、世界中のタタール人と知り合える稀有な場でもある。これを機に、世界中のタタール人と繋がり、タタール語やタタール文化を彼らから学ぶことができるだろう。

タタール語オリンピック、とっても楽しいですよ!

・参加者の私から一言
タタール語学習者の皆さん、カザンは次なる日本からのタタール語オリンピックへの参加者を心から待っています。少しでもタタール語を学んだことがあるのなら、この機会を存分に活かしてみてはいかがでしょう?

さらに、私たち「アクバルス」執筆者たちは、新たなタタール語仲間を常に待ち望んでおります・・・・!(切実)



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